240401mon

19℃ 曇時々雨

6時半に起きて東海のGへ。1年近くぶりにYに会いに行く18切符の鈍行日帰り旅行である。てっきり晴れると思い込んで楽しみにしていた長閑な散歩が、予想を裏切られ雨に降られどことなく肌寒く、一日中パッとしない天気であった。電車遅延と読みの甘さにより到着が1時間遅れそうになるが、Yが機転を利かせて山北駅まで迎えに来てくれたおかげでさほどのロスをせずに済んだ。出会い頭に、変わらず大学の課題に取り組んでいるのかと聞かれて苦笑した。Yにとっての自分は、絵描きである以前に社会人学生(それも大学・大学院を出て再度大学に入り直す筋金入りの勉強好き)なのだ。おそらく自分の専門ですらまともに把握されていないのではないかと思う。自分は学部から修士にかけて油画を専攻し、今は東京にある総合大学の文学部に所属している。

岸信介邸を見学。吉田五十八の晩年の作であるこの建築はキリリとした瀟洒なスタイルで、ゆったりと目に心地よかった。こういう豪邸に使用人として勤めたいものだ。
昼食はとらや工房にて赤飯。一汁一菜の丁寧なご飯を頂いていると「あー、自分もこういうのをありがたがる立派なアラサーになったことよ」としみじみ感じ入る。4月しょっぱなの月曜日であるだけあって客足はまばらで暖房が暖かく、たいそう居心地がよかった。Yはテイクアウトで味噌まんじゅうとどら焼き2種を買ってくれた。
その後Eに移動し、試食とお土産の入手。完全に場所を持て余しており試食コーナーが異様に広く、しかしオペレーションというか導線サイン全体が野暮ったくごちゃごちゃしていた。試食システム自体は良かった。20種類近くせんべいを食べ比べできた。

Yの自邸に移動して2時間ほど歓談。Yは意図せずして不倫の泥沼の挙句ストーキング行為に困っているらしい。相変わらず微妙に話が噛み合わない。というのも、Yの問題解決のためにこちらの経験談を語った際に「あなたも苦労して、、」的な辛気臭い同情のノリになってしまい、あーいやそういう悲劇のヒロイン的陶酔不幸話として言ったんではなく。とにかくあわよくば若い女とねんごろになろうとする不倫願望を持つ下衆の中高年は巷に蔓延っており、どこにでもある取るに足らない下らない話なんだ、人間を見る目を養って自衛しなくてはいけないという意味でこちらは言ったわけだが。まあしかし少しでも励まされたのなら良かったとも思う。が、いやしかし如何せん同情ノリは苦手だ。自分は今、結構公私ともに順風満帆で(情熱も欲望も枯渇している事実を除けば)幸せなんである。というか幸せで満たされているから飢えや欲望が無いのか。今十分に幸せなのでこちらが「幸せになる」ことを「何らかの困難を抱えている」他人に願われることに強い違和感を覚える。普通に考えて他人の心配をしている場合ではないのである。この会話を思い起こすにつけYに話が通じていかなかった苦々しさが残る。「人が安心して一人で生きていける社会であるべきだ」というこちらの理想が伝わらない。また、Yはどこかナナメに構えているところがあって、自身の惨めさを受け止められていないのではないかと思った。自分はそうしたYのプライドは守らなくてはいけないし、相手に恥をかかせることを望んでいるわけでは全くない。しかしナナメに構えず素直になることができたらこの先より生きやすくなるのではないかとも思う。Yが「自分は底辺だから〜」と自虐するとき、こちらはそれをどう対応したものかと困る。我々の間においては、そんなことはどうでもいいことだったのではないのか。

16時ごろGを経つ。多分この土地に来ることは二度と無いだろう。思い残すことも無いし。駅のNewdays大吟醸正雪の青瓶を買う。ここ20年はどこもキオスクではなくNewdaysになったなあ気がつけば。
自宅ではなくT邸へ向かう。Kのまるからの前を通りすがり、何やら人気そうで美味そうなので弁当を買う。ふんわりと上がる湯気。唐揚げと焼売と卵焼きの炊き込みご飯弁当650円。T邸で温め直して弁当を頬張る。美味い。衣服を脱いでそのまま布団に包まれて眠りに落ちる。

保坂和志『小説の自由』を携帯していたが読まず。読まなくても作家の魂としての本を持ち歩くことに意味を感じている。